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2014年7月 5日 (土)

一枚の図面から 26-9 機関車のバネ装置 9

実物のばね装置、今回が最終です。

一見複雑に見える、関節式機関車、いわゆるマレー式(日本の場合)のばね装置を紹介します。

先ず、アメリカ製の9800、1911年ボールドウィン製の場合です。
98001
 後部の、ボイラーに固定されている台枠部は左右各1点、後部の3軸は第5動輪部に仮想の回転軸があります。
ですから、前の台車が無ければ後部の動輪が線路に密着したままボイラー前部は上下に自由に動けると言う事です。
と言う事は、前位台車が1点であれば普通の3点支持になります。
 前位台車を見てください、第1動輪前方に左右の渡りイコライザーが有るので、台枠は動かなくてもちゃんと1点になっています。

 模型で考えると、後部台枠は固定でも、前の台車はぐらぐら動くイメージですが、考えてみてください、蒸気機関車はシリンダへ高圧の蒸気のやり取りが必要です。
後部のシリンダーが高圧で、前部のシリンダーは低圧ですが、それでも蒸気が漏れると全く性能が出ません。
 ここで、その前部台車がグラグラならこの蒸気の経路の継手が上下左右に動いて非常に難しい構造になるだろうと思うのですが、これは間違いです。
 前部台枠は、実は上下方向には全く動きが無く、左右に回転するだけなんです。
と言う事は、蒸気管の継手は単に回転するだけなので、非常に構造が簡単で漏れも少ない構造です。
 前部台枠の中央部にボイラーからの荷重を伝える部分がありますが、上下しないのでここにはバネ類は全くなく、横にスライドするだけです。

 要するに、長い台枠で、通常の3点支持(D51等のタイプ)で、台枠の中央部が左右にのみ曲がる構造になっていると言う事です。

この機関車のイコライザーは部品図があります。
98002
 右下にイコライザー機構の略図がありますね、一般的なアメリカの機関車のイコライザーの構造を考える面でも有用ですね。

 マレー式のイコライザー、もう一つの例として、ドイツヘンシェル製の9850の例です。
この機関車は大宮の鉄道博物館に保存されているので、ぜひご覧いただきたいと思います。
98501
 この機関車は後部台枠は9800と同様、左右の2点ですが、前部台枠も左右2点で、左右渡りイコライザーがありません。
と言う事は、9800と同じように考えると4点支持となります。

本当にそうでしょうか?

 鉄道史料107号に、この機関車の明細図が掲載されているのですが、鉄道史料が図面を抜粋して掲載した場合、大抵は必要な図面が掲載されませんね、どういう事でしょう?
 C53の明細図に、最も重要な大テコの図面が抜けてたり・・・抜粋せずに全部掲載したら良いのにといつも思います。
まぁ余談はさておき、鉄道史料には載っていない図面です。
34_henschel_cch4v_9850_019l
 これは、前部の低圧シリンダーからの排気管で、左上が煙室で、そのまま煙突につながっています。
 普通に考えれば、左上と右下が回転できるようになっているものですが、面白いことに、右下のエルボ(肘継手)はシリンダに固定されていて回転しません。
このエルボの左の部分に可動部があります、その部分は球面になっていて、上下左右に動きます、また、その左に2重になっているところはリングが入っており、伸縮するようになっています、その左、上向きのエルボの上部は煙室下部にバネがあり、その下は球面になっています。
 要するにこの部分の管は上下左右に動けて、伸縮も出来ると言う事です。

もう1枚
34_henschel_cch4v_9850_022023l
 この図面は鉄道史料に有ります。後部の高圧シリンダーからの排気を前部の低圧シリンダーへ送る管です。
上の図が側面、下の図が平面です。
 前後の二股のすぐ横が球面継手になっています、こちらの球面継手は高圧なのでバネで常に押さえつけるようになっていますね。
また、右の方に伸縮継手があります、こちらもバネで押さえていますね。圧力の違いで構造が違っているのは面白いですね。こちらの管も球面継手なので、上下左右に動くことが可能で、伸縮もすると言う事です。

さらにもう1枚、これも鉄道史料にはありません。
98502
 これはちょっとややこしいですが、前部台枠の後端、回転の中心ピンの所の詳細ですが、
後部台枠の前端下部から上に棒があり、前部台枠の上部につながっています、その上部はコイルばねで押さえています。
この棒の上下は自由に回転できるように球面になっています。
この棒は何の役目を果たすのでしょう?
 前部台枠が回転すると棒が延びる方向なので、バネが無いとすれば、中心ピンの部分が下がってしまいますが、そのようには見えないので、このバネが必要と言う事になります。
と言う事で、回転すればバネがたわむので、前部台枠の回転を抑制することになります。
この棒はもう一つ目的があり、前部台枠が左右にスイングすると、バネがたわむことになるので、左右のスイングの抑制をするようになっています。
これはとりもなおさず、左右にスイングできると言う事ですね。
 上記の、蒸気管の自在継手の存在もあり、この前部台枠は、回転と同時に左右にもスイングすると言う事ですね。

前部台枠がスイングすると言う事は、イコライザーが左右2点でも、中央の1点と言う事になり、上記の4点支持ではなく3点支持だという結論になります。

これは、9800とは大きく違う所で、ドイツの高い技術を感じます。
 この辺りを大宮の鉄道博物館で見た時の写真で確認しようと思いましたが、カバーや骨組みで、最も見たい回転中心が隠れています。何を展示したいんだか・・・・トホホとなりますね。

4500も調べようと思いましたが、残念ながら私が持っている資料では構造が分かりませんでした。

MI社の製品はイコライザーが付いていますが、前部も後部も3点支持になっています、後部台枠だけは絶対に左右2点にしなければ、前部台枠の上下に対応できませんね。
キットを作られる方は改造することをお勧めします。

実物編は以上です。

次回は模型のイコライザーの例を挙げようかと思いますが、図を書かなければいけないので、いつになりますやら・・・・・

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コメント

>4500も調べようと思いましたが、、、、構造が分かりませんでした。
 ☆分からなくてよかった!?いま分かっても困りますもんね、私の場合。

投稿: 三木の干し殺し | 2014年7月 5日 (土) 23時28分

ははは!!

投稿: クラーケン | 2014年7月 6日 (日) 03時15分

9850形の前後台枠をつなぐハンガーボルトですが、当時のAlcoで一般的なもので、コイルバネを挿入したものとしないものと両方存在しますので、ドイツ独自の技術というわけでもなさそうです
作用ですが、Alcoのパンフレットによれば缶胴下の滑台に掛かる前台枠への重量を分担し、滑台の摩擦を減じて首振りを円滑にするようにも読み取れます
BLWではこのハンガーボルトを使わず、前台枠後端のコの字の間に後台枠先端を差し込んで同等効果を狙ってるようです
余談ですが、低圧気筒へ行く蒸気管のボールジョイントはBLWでは前台枠の首振り中心と一致してるのに対し、Alcoやヘンシェルでは前にずれてて機構的に美しくないです
(パテント回避かも知れませんが面倒なので調査しません・・・笑)

投稿: たかひろ | 2014年7月 7日 (月) 13時20分

たかひろ様
そうですか、9750は組立図しかなかったので見なかったのですが、確かに付いていますね。
首を振ればハンガーボルトは傾くので、バネが無いと言う事は、首を振れば中心ピン部が上がると言う事ですね。

蒸気管のジョイントは、9800の場合は回転するだけで左右のスイングや上下動をしないので中心ピンと合わせると回転運動だけなので合理的ですね、それに対して9850は左右にスイングするようなので、蒸気管のジョイントはどこにあっても特に問題ないので、合理的な位置にしたんだと思うんですが、いかがですか?

投稿: クラーケン | 2014年7月 7日 (月) 21時09分

9850形の蒸気管スイング(懸架)機構の存在が理解できました
しかしBLWのようにすれば本来省略可能な機構ですから、シンプルイズベストの観点よりすれば米国より若干劣りますね

投稿: たかひろ | 2014年7月 7日 (月) 21時21分

確かにBLWタイプの方が合理的に思えますねぇ。
ただ、各部が摩耗してきた時には融通が利かないので蒸気漏れが起こりやすいかも知れませんね。

投稿: クラーケン | 2014年7月 7日 (月) 21時32分

と言うか9850形のメリットはボールジョイント部の可視性および可接近性が良いってことではないかと今にして気付いた次第です

投稿: たかひろ | 2014年7月 7日 (月) 22時33分

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