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2014年1月 3日 (金)

一枚の写真から 13 機関車編 ブレーキヴァンが付いた機関車

1号の次は2号かというとそうではなく、8,9号です。

この機関車は後の形式190で、最初のDubs製の機関車です。

金田茂裕氏の「日本最初の機関車群」から。

4368mitchel_library_1l

そして、後ろにブレーキヴァンと称する車両を連結した状態。

4368mitchel_library_2l

そしてもう1枚、ノースブリティッシュのカタログから。

4368jubilee_handbook_of_nbll

製造当時をしのぶ写真はこの3枚だけだと思うんですが、問題は後の2枚、ブレーキヴァンと称する車両の存在がこの機関車の白眉です。

この機関車、本体にはブレーキシューがありませんね、そしてブレーキヴァンには付いている、これは5000の場合と同様で、5000の場合は炭水車のみにブレーキが付いています。という事はこの機関車は5000と同様、ブレーキヴァンを連結して運用するという事ですね。

ところが、ここに大きな疑問が・・・、それは、このタイプは機関車が2両でブレーキヴァンは1両しかないのです。これでは、2両のうち1両しか使えないという事になり、開業に当たって購入したばかりの物でこれはふつうありえません。機関車2両、ブレーキヴァン1両で済む方法は・・・

これがこの機関車の謎なんですよ。ここで、この機関車の組立図を見て頂きましょう。

Dubs_190_436e_a0_200l

これの前後の連結器、変な形ですね、これの解析は「SL No.3」と金田さんの「日本最初の機関車群」を参照いただくとして、通常はバッファとスクリュー連結器ですよね、図面の連結器が実際に来た機関車とは違うという事で、当時中古品説も出たようですが、メーカーの竣工写真でもこの連結器が付いており、日本に送る時に付け替えた物と思います。そして注目は、後ろに連結されている車両、ブレーキヴァンなら、台枠が車輪の外側にあるはずですが、この図では内側、よくよく見ると、これは前の機関車と同じ物です。という事は前後反転に連結した、鉄連の双合機関車と同じ。前後の機関車の屋根は別の物を上にかぶせているようなので、屋根は同じで、違いは渡り板のみのようです。

この状態では結局前にも後ろにもブレーキが無いという状態です。後ろの機関車のみブレーキが付いている可能性も考えましたが、動輪が後ろいっぱいまで来ていて、ハンドブレーキの軸を付ける場所がありません。これではブレーキは成り立ちませんね。後にブレーキを付ける改造をした時は、台枠を後ろに延長してブレーキ軸を付けています。

この状態でブレーキを掛けようとすれば、どちらかの機関車を逆転するくらいしかないように思います。ブレーキ側の機関車のレギュレータを絞っても、惰行状態と同じで、スライドバルブが浮くことでシリンダーではブレーキが掛かりませんね。それでは本当に全くブレーキが無かったかというと、そうでもなくて、この図面の側面図のシリンダ排気管の下の方を見て頂くと排気管の中心線上にレバーが付いた蝶ナットを上から見たようなものがあります。この横にはSteam Brakeと書いています、これはレバーで回転するようになっていて、蝶ナットの様に見える物は、前から見ると円形で、90度回転したら排気管を塞ぐ形になります。これによってシリンダー内の圧力が排気されないようにしてブレーキを掛けるものです。恐らくレギュレータは少し開いてスライドバルブの背圧が利く状態で、バルブギヤーはニュートラルで、この弁を塞いだのではないかと思います。しかし、このような物で完全にふさげる物でもなく、最終的には自然に停止を待つか、別の機関車で逆転させるかとなって、営業運転では使えそうもないと思うんです。

ここからは私の想像ですが、これはDubsで双合機関車の構想を立て、それ用の連結器の特許も取って実際に作ってみた試作機ではなかろうか?作ったのは機関車2両でこの組立図の状態。当時は3’6”の鉄道が増えていた時代でしたので、このサイズの販路も考えに入れたと推察されます。そして日本から機関車の打診があり、この機関車を売り込んだのではないかと・・・

新橋-横浜間は当面必要な鉄道という事で、後の東海道線の一部と言う考えはなく、単独の支線と考えられていたのですが、考えてみると、この間32㎞の間で昼間のみ1時間間隔で1日9往復、運転時間53分の線で、当初輸入された機関車は10両!ダイヤから考えると4両で運行できるので、普通に考えれば予備機も入れても6両もあれば足る事になります、それに、新橋、横浜での入換機関車(これは予備機でもまかなえそうですが)各1両で総勢8両もあれば充分な営業が可能と思われます。

またまた私の想像ですが、それプラス特殊用途の2両、これがこの機関車ではないかと思うんです。上記の様にブレーキに弱点があるので、売り込みに際して2両の間にブレーキ車を付けて、円滑な運転ができるようにしたと思えば、両数の問題は解決です。これにはもう一つ理由があり、写真では、機関車の反対側に手ブレーキハンドルがあります。ブレーキリンケイジから考えると、機関車側にも手ブレーキがあるとは考えられず、この写真の状態での運行は考えにくいと思われます。

ではどんな特殊用途か・・・

ブレーキヴァンをよく見ますと、側面中央に大きな観音開きの扉があり、相当大きなものが積めそうです、また、屋上にはランプカバーがあるので、人が載ることも考えられます。ここで、上から2番目の写真をご覧ください、妻面に窓のような白で四角い物があります、これは窓を表しているようですが、透視図の手法で線を引いてみると、各辺の角度や高さが成り立っていません、反対側の側面に壁があるのに、こんな真っ白に穴が見えるのもおかしい事で、3枚目の写真の様に黒くつぶれるのが普通です。以上の事から、この窓は、「窓が開いている」という事を説明するために写真に細工をしたものと思われます。ただ、側面に窓が無く、人が載るので、この位置に窓があるのは妥当なので、このような位置に窓があったと考えるべきだと思います。

という事は・・・大きな物が積めて人が乗れて、しかも前後に自由に動ける・・・・

私は、不測の事態に備えての事故救援車ではなかったか?と思うんです。全く初めて作る鉄道ですので、脱線事故や、大型動物(牛や馬)との衝突等で脱線事故が多いと考えたモレルがそういう場合に対応できる車両として準備したんではないか?ブレーキヴァンにはジャッキや枕木や複線器等も詰めるし救援要員も乗れます。事故があったら列車を組成することなくすぐに出動できます。

ところが、実際に営業を始めてみるとそのような事故はほとんど起こらず、準備した機関車に調子の悪い物(後の110や150)があって、列車運用に使おうと考えたと思うんですが、列車単位は重連を要するほど大きくなく、片方のみの力行で充分という事であれば、方向転換が不要というメリットだけで、有効長は長いし、乗務員は倍要るし、力行しなくても保火は必要で燃料を使うし・・・そんなわけで非常に不経済な物となったと思います。

ですから、1両だけ手ブレーキを装備する改造をして独立させ、もう1両はブレーキヴァンを写真と反対でブレーキが機関車側に来るように連結した状態で営業運転をしたのではないかと考えるんですが、皆さんはどう思われますか?

ここで錦絵、先ずは国輝。

7_l

そして幾英。

31_l

機関車は明らかにこれですねぇ、国輝はブレーキヴァンの様に見えます。幾英は炭水車のように見えますが、京浜間には当時テンダ機関車は居なかったので、単に石炭を積んでいる無蓋車の様に思います、そしてこの幾英の絵はキャブが後ろに延長されていますので、手ブレーキ付に改造された後ですね。

写真はこんな感じです、番号は違いますがぴったりでしょ?

4379wicollection_2l

この後、2両とも手ブレーキ付に改造して、ブレーキヴァンは廃車になったか、別の車種に改造されたと思われます。

後に大改造を受けて、原形がほとんどわからないくらいに改造されてしまって普通の機関車になってしまいました。まぁ、それはそれで格好いいんですが・・・

ものすごい長文になってしまいましたが、これを書くのにあれこれ考えて5時間も掛かったという事でご容赦ください。

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コメント

今年もよろしくお願いします。

Dubs出願の連結器の米国特許です。ご参考まで
http://www.google.com/patents/US112431

投稿: railtruck | 2014年1月 3日 (金) 08時20分

おお!すごい!
この機関車は1871年には到着していたと思われるので、時期的にもぴったりですねぇ。
ちなみに「日本最初の機関車群」所載のこの連結器の詳細図はEngineeringの1871年5月5日号の物です。内容はほぼ同じですね。

投稿: クラーケン | 2014年1月 3日 (金) 12時51分

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